シングルマザー・マリー【後編】

夫の死後、彼女は愛する夫を失った悲しみに暮れる間もなく、
真っ先に子供たちの精神面に目を向けた。



まず、父親を亡くした子供たちの精神的影響を懸念した彼女は仕事を辞め、
子供たちと毎日一緒にいるために預貯金300万円すべてを3年間の生活費にあてた。
その3年間は子供たちと密に時間を過ごすことだけに集中したかったからだ。



「日々行動を共にし、子供が父親を失った辛さや悲しみを分かち合いながら、
母親として愛情をたっぷり注ぎたかった」
と彼女は言う。



もちろん生活が楽だったとは言えない。
しかし、その3年間は彼女にも子供たちにとっても最優先だった
癒しの期間だったことは間違いない。



3年が過ぎたころ、彼女は息子を入園させた保育園の保育士として働き始めた。
まだ幼い息子のそばにいることができるためだ。
そうこうしながら、近所に住んでいた実母のサポートも借りながら、
彼女は自分の足で一歩一歩進み始めた。



その後、娘が不治の病に襲われたが、
通院を繰り返しながらも乗り切り、
二人の子供を大学まで卒業させた。



娘が結婚し、息子が大学を卒業するころ、
マリーはハイスクール時代の旧友に偶然、町で出会う。
ジャズピアニストとして、そして不動産経営をするジムは、
ハイスクール時代に密かにマリーに恋心を抱いていただけに、
その再会を心から喜んだ。
彼は離婚したばかりだった。



何度かデートを重ねるうちに二人は意気投合、しばらくして同居した。
数十年経った現在も二人は結婚はせず、
互いに助け合いながら仲睦まじく暮らしている。



70歳を迎えたマリーに
「いずれジムと一緒のお墓に入るつもり?」
と私が尋ねると、
彼女はきっぱりと答えた。
「デイビッドと一緒よ」




マリーは私よりずっと年上の数少ない大切なアメリカの友人である。
夫デイビットを失くした底知れぬ悲しみや辛さを乗り越えるためにも
彼女はチャリティーや社会奉仕、ボランティアに力をいれた。
弱者に手を差し伸べ、愛と慈悲に満ち溢れたその姿は、
家族や親せき、友人たちだけでなく、
今も周囲の者たちにポジティブなエネルギーをとめどなく注ぎ続けている。

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