ソウルメイト【後編】

大学卒業後、スーザンは大学院へ進み、修士号を取得。
その後、サイエンス関係の会社に就職後は、社内恋愛をして結婚した。
息子が生まれ、特に荒波をくぐることもなく時は流れていった。



ジョンも大学を経て就職。
当時出逢った女性と結婚した。



以来、二人は高校卒業後に一度も会うことなく、
ハイスクール時代の思い出は遠い過去のものとなった。



40年以上の時を経たころ、
スーザンの夫が病死、息子はすでに結婚して他州に移住していた。



スーザンは寂しさも相まってふとフェイスブックを始めた。
しばらくするとメッセージが飛び込んできた。
ジョンだった。



「久しぶり。僕のこと、覚えているかな。ハイスクール時代の同級生だよ。
その後、どうしているの?」



「あの・・・私をいじめからかばってくれたジョン?」



失った時間を惜しむように二人は毎日のように会話をした。
二人のこれまでの人生や結婚、子供たちのこと・・・・



そんなある日、ジョンが言った。
「スーザン、僕と一緒に暮らさないか?
君の夢を手助けしたいんだ」



スーザンの夢。
それは父や自分が収集してきた化石を陳列する博物館を建てることだった。



ジョンの一言でスーザンは動き出した。
地元の歴史博物館などにかけあって、空いている土地はあるかどうか、
未使用の建物はあるのかどうか聞いて回った。



ある日、地元の小さなアメリカンインディアン博物館が返事をくれた。
隣に使っていない古びた納屋が空いているから、使ってくれていいというのだ。



ジョンはスーザンの家に越してきて、自力でその納屋の修理をしだした。
完璧とはいえないまでも、
数カ月後にはその田舎の土地にあった風情ある納屋風の小さな博物館が完成。
大量の化石のコレクションが運ばれて、スーザンは陳列をデザインした。
スーザンの目が輝いていた。
ジョンはそんなスーザンをひたむきな笑顔で包んでいたという。



10年後にジョンは死去。
今はたった一人でその博物館を経営するスーザンは、
静かに思い出に耽るように私に語った。



「私はとてもロジカルな人間よ。サイエンスしか信じてこなかった。
ソウルメイトとか、そういう目に見えないものは信じてこなかったけど、
今、誰を心から恋しく思っているといえば、
不思議と・・・夫じゃないの・・・・
ジョンなのよ。
毎日この博物館に来るたびに、屋根でハンマーを握って釘を打ってたジョンが見えるの。
彼との暮らしは短かったけど、とても幸せだった。
彼は亡くなる前に、じっと私の目を見つめてこう言ったのよ。
「スーザン、ハイスクール時代からずっと・・・君を愛していたよ」



そう語ったスーザンの目に涙がうっすらと浮かんでいた。

ソウルメイト 【前編】

ニューハンプシャー州の静かな田舎町に住むスーザンは
一見すると普通のリタイヤした小柄なお年寄りの女性に見える。
だが、彼女はれっきとした科学者であり、理で物事を考えるロジカルな女性だ。



考古学教授の父を心から尊敬していたスーザンは、
父親の影響を大きく受けて、
幼いころからすべての科学に、特に化石に非常に興味を持っていた。
父親は地元で発見された化石の収集を長年続けており、
家にはあらゆる化石が陳列されていたからだ。
あまりにもその収集が増えたために、父親が庭にそのための小屋を建てたほどで、
その小屋で化石に触れたり、じっと眺めて時間を過ごすのがスーザンの日課だった。



スーザンは理知的で、
ハイスクール時代は成績は非常に優秀、
特にサイエンスにかけてはクラスで常にトップだった。
しかし、そんなスーザンをリスペクトするどころか、
茶化したり、いじめたりするクラスメートが数人いた。



何も言えずに彼らを避ける日々を続けていたある日、
いつもは静かで口数少ない男子生徒が
いじめられていた彼女の前に立ちはだかってこう叫んだ。



「スーザンは頭脳明晰で聡明な女の子だ!
そんな彼女をいじめるなんて、
お前たちは最低だ!
彼女みたいに勉強できないくせに!」



スーザンはあまりにも驚いて言葉を失くした。
彼は誰なの?



その時、初めて彼女は彼と言葉を交わした。


「かばってくれてありがとう。
名前はなんていうの?」



彼ははにかみながら答えた。


「ジョン。
君のことはいつもすごいなって見てたんだ」



以来、二人はたまに言葉を交わす友人になったが、
高校卒業とともに二人は他州の大学に進み、
音信不通となった。



続く・・・・

シングルマザー・マリー【後編】

夫の死後、彼女は愛する夫を失った悲しみに暮れる間もなく、
真っ先に子供たちの精神面に目を向けた。



まず、父親を亡くした子供たちの精神的影響を懸念した彼女は仕事を辞め、
子供たちと毎日一緒にいるために預貯金300万円すべてを3年間の生活費にあてた。
その3年間は子供たちと密に時間を過ごすことだけに集中したかったからだ。



「日々行動を共にし、子供が父親を失った辛さや悲しみを分かち合いながら、
母親として愛情をたっぷり注ぎたかった」
と彼女は言う。



もちろん生活が楽だったとは言えない。
しかし、その3年間は彼女にも子供たちにとっても最優先だった
癒しの期間だったことは間違いない。



3年が過ぎたころ、彼女は息子を入園させた保育園の保育士として働き始めた。
まだ幼い息子のそばにいることができるためだ。
そうこうしながら、近所に住んでいた実母のサポートも借りながら、
彼女は自分の足で一歩一歩進み始めた。



その後、娘が不治の病に襲われたが、
通院を繰り返しながらも乗り切り、
二人の子供を大学まで卒業させた。



娘が結婚し、息子が大学を卒業するころ、
マリーはハイスクール時代の旧友に偶然、町で出会う。
ジャズピアニストとして、そして不動産経営をするジムは、
ハイスクール時代に密かにマリーに恋心を抱いていただけに、
その再会を心から喜んだ。
彼は離婚したばかりだった。



何度かデートを重ねるうちに二人は意気投合、しばらくして同居した。
数十年経った現在も二人は結婚はせず、
互いに助け合いながら仲睦まじく暮らしている。



70歳を迎えたマリーに
「いずれジムと一緒のお墓に入るつもり?」
と私が尋ねると、
彼女はきっぱりと答えた。
「デイビッドと一緒よ」




マリーは私よりずっと年上の数少ない大切なアメリカの友人である。
夫デイビットを失くした底知れぬ悲しみや辛さを乗り越えるためにも
彼女はチャリティーや社会奉仕、ボランティアに力をいれた。
弱者に手を差し伸べ、愛と慈悲に満ち溢れたその姿は、
家族や親せき、友人たちだけでなく、
今も周囲の者たちにポジティブなエネルギーをとめどなく注ぎ続けている。